今は空き家になった、善三じいちゃんの家の二階を片付けていたら、たんすの中からセピア色の写真が出てきた。瀬戸内海の海岸線ぎりぎりまでぶどう畑が広がっていて、そこには褐色に日焼けした若かりし頃のじいちゃんと、てぬぐいをほっかぶりしたミヨシばあちゃん。二人とも太陽の眩しさに目を細めている。
「ねぇ、母さん、これってうちの畑?」。
「懐かしいねぇ。そうそう。昔は、ここら辺りは一面のぶどう畑で『赤いダイヤ』と呼ばれるほど、それはもう、日本一のぶどうを作っていたんだよ。まだ、岬が生まれる前の頃の話だけどねぇ」
私、春山岬が住んでいるのは、瀬戸内の山と海に抱かれた町、多度津。地中海の気候にも似た、水はけの良く、日当たりの良い丘陵地だ。じいちゃんとばあちゃんが亡くなってから、周りの農家さんもどんどん年をとって、ここでぶどうを作る人はいなくなった。
畑を一面、ルビー色に染めていた美しい景色は、一転して、草ぼうぼうの耕作放棄地になりかけて、誰もがこのまま、荒れ地に戻ってしまうのかな、と諦めかけていた頃、舞い込んできたのがオリーブ作りの話だ。今、うちでは、じいちゃんの残してくれた土地で、父さんと母さんがオリーブを作っている。そして、その手伝いに私も駆り出されている、というわけ。
「母さんが小学生の頃は、太陽の日差しで真っ黒に日焼けして、ぶどう畑のお手伝いをしてきたよ。最盛期の頃は、山梨や長野にも負けない、それはもう日本一のぶどうを作ってきたからね」
もともと農家さんが持っていた高い技術力と肥沃な土壌。これを武器にオリーブの生産をはじめてから、多度津のオリーブの木はすくすくと育ち、今では若い人も「オリーブを作ってみたい」と相談に来る人がいるほど。
「オリーブの実って、雫のような形をして可愛いでしょ。育てていて癒されるし、ヨーロッパでは、オリーブの木は『平和の象徴』なのよ」
「聞いたことある!オリーブって、聖書の中の『ノアの箱舟』にも出てくるんだよね。このお話しの一節で、鳩がくわえて持ち帰ったのがオリーブの葉で、ノアが、大洪水が終わり、平和が蘇ったことを知るきっかけにもなるエピソードだよね。学校で習ったよ」
「ここ、多度津は赤いダイヤから、蒼のダイヤへ生まれ変わったの。とは言っても、昔みたいに畑をする人がいなくなって、ほとんどが手付かずで山へ戻ってしまったけれど。母さんの夢は、ぶどう畑だったあの頃の景色を、今度は、一面のオリーブで取り戻すことなのよ」
「なんかすごくロマンティックな物語!」
国際オリーブ協会の基準では、味、香り、品質に優れ、酸度0.8%以下のバージンオリーブオイルだけが「エキストラバージンオリーブオイル」と認められます。多度津のオリーブオイルは農家の皆さんが一つひとつ丁寧に手摘みし、新鮮なうちに加工処理するため、この基準をすべてクリアしており、OLIVE JAPANのコンテストでも金賞を受賞した実力派。オリーブオイルには、悪玉コレステロールを下げるオレイン酸が70%も含まれており、身体を内臓から健やかに保つ高い抗酸化作用があるとも言われています。