広島県の南央部、瀬戸内海に面した竹原市。かつて瀬戸内の交通の起点として発展したこの町は、一大製塩地として栄え、一面の塩田が広がっていました。北前船の時代、北海道まで販路が拡大したことで、作れば作っただけ売れるようになった瀬戸内の塩は、飛騨、信濃などの山国へ運ばれました。
江戸時代後期の風情が今も残る「竹原町並み保存地区」。この地区に一歩入れば、石畳の道と、歴史ある寺社やお屋敷が残り、まるで時代をタイムスリップしたかのよう。ここは、主人公が、現在、過去、未来と、時空を越えてまさにタイムスリップする映画「時をかける少女」や、アニメ「たまゆら」などのロケが行われた聖地でもあるのです。
「時をかける少女」は、16歳の主人公、和子を巡る、時空を越えたファンタジー物語。ある日、理科室の実験室で、倒れたフラスコから不思議な香りのする煙をかぎながら失神してしまう和子。その甘いにおいの正体は、ラベンダーの香り。そこから彼女の時間は少しずつ狂い始めます。
教室での漢文の授業、夜に起きた地震と火事、お堂の屋根瓦の崩壊。一度、体験したはずのことがもう一度、繰り返されるのです。「あら?私、どうしちゃたのかしら?」。和子の頭の中はパニックになります。同級生の吾朗ちゃん家の造り醤油屋で起こる火事も、通学路の途中のお堂の瓦が落ちてくることも、すべてお見通しなのですから。
そんな不思議な話を優しく受け止めてくれるのが、同級生の深町くん。言葉少なげで、星空を愛するロマンティストな彼は、それは特殊な超能力、タイムリープとテレポーテーションのせいだと説明して和子を慰めるのですが…。実は、彼こそが、未来の2660年から時空を越えてやってきた少年でした。
「僕達はいつか、また、出会えるかもしれない」。そう言い残し、未来へ戻ってしまいます。
それから数年後、すっかり大人になった二人は大学の実験室ですれ違います。一瞬、お互いに気づきかけるのですが、だけど、そのまますれ違ってしまう二人。
町並み保存地区を歩ければ、和子が駆け下りた長い石段、物語で重要なシーンとなる「胡堂」、造り醤油屋などが今も当時の姿のまま残っています。和子と深町くんが一緒に歩いた小高い山は、市の重要文化財に指定されている西方寺。京都の清水寺を模して造られた観音堂は建築美術を知る上でも貴重な存在です。
もう一つの作品、「たまゆら」は、竹原市を主な舞台に、写真好きな女子高生、沢渡楓(さわたり・ふう)と彼女を取り巻く友人との絆、進路、夢などを描いたハートフルな物語。竹原は、2017年に続き、2018年も「訪れてみたい日本のアニメ聖地」88か所に選ばれています。
劇中に登場するレトロな日の丸写真館の前には、北前船の時代、寄港地だったことを象徴する、常夜灯や雁木が今も町を見守り続けます。竹原の風景が忠実に描かれているので、その風景を探しに竹原の町を歩いてみるのも楽しいはず。