Vol.18

大豆くん、醤油になって世界へ

僕の名前は豆太。石川県は志賀町という町の醤油蔵で暮らしている。志賀町? 聞いたことないな、という人でも、北陸地方の真ん中あたりから、日本海に向かって北に突き出した能登半島の一部、と言えば少し親近感がわくかな? 今年はこの町にある福浦港が北前船の寄港地として認定されたことで、町はにわかに色めきだっている。

僕はこの地の畑で、大豆として生まれ育ち、収穫された。これから加工品として醤油に生まれ変わる日を待っている。大豆は、味噌や醤油、お豆腐などの原料として昔から日本人の食生活を陰ながら支えてきた。豊富なたんぱく質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などを含む素晴らしい「スーパーフーズ」なんだけど、見た目からしてイマイチ地味で、パッとしない。僕も畑では、隣でいつも太陽のように神々しい存在感を放っているトウモロコシから、「やい、小さい豆太、地味な豆太」ってからかわれて散々悔しい思いをしてきた。だけど最近では、SDGsの取り組みで、食肉に変わる「DAIZU ミラクルミート」として大豆が注目されているらしい。僕たち大豆族にしたら嬉しいホットニュースだ。いつもの漢字からアルファベット表記にするだけで、どんな国でも立派に渡り歩いていける、そんな気分になってくる。

話がすっかり脱線してしまった。僕は、創業大正15年、代々醤油造りを営むカネヨ醤油という蔵の一角で暮らしている。僕の先祖たちも、代々醤油に加工され、日本をはじめ世界に飛び立っていった。そうそう、北前船が運んだ食材の一つにも醤油があったっけ。

僕の家系図を遡れば、おじいさんは、当時まだ醤油が珍しかったフランスに輸出された。今では海外でも日本食ブームが広がっているけれど、当時は慣れない異国の地でスーパーの棚に並べられ、何年も陳列されたまま手に取ってもらえず、それはそれは、苦労したらしい。

話を本筋に戻そう。能登醤油の特徴はなぜ甘口か? と言えば、それはこの地方の食文化とも関係している。冬の時期、日本海の荒波でとれる脂のたっぷり乗ったブリ。そのほか、イカ、アジ、サバ、牡蠣、カニ等、新鮮な魚介が日常的に食される能登で醤油は欠かせない調味料で、その鮮度抜群の魚介には少し甘めの醤油が最適という話だ。

こんなよもやま話をしているうちに、どうやら僕が巣立つ日がやってきた。この先、僕は他の仲間たちと共に24時間、水に浸けられたあと大きな鍋で蒸される。硬くこわばった身は柔らかくホックホクにされるらしい。そして炒られた小麦、種麹と一緒に混ぜられる。そこで発生した微生物がぷくぷく音をたて始めたら僕たちが発酵して、おいしい醤油になる「しるし」だ。聞いているだけでワクワク、ソワソワしてくる。
願わくば、僕はカネヨ醤油のニューフェイス「パンケーキにかける醤油」になって、「小さくて、地味な豆太」から「スーパー・ミラクル・ボーイ豆太」に生まれ変わりたい。それじゃ皆さん、生まれかわった僕といつかスーパーの陳列棚で再会しましょう!

カネヨ醤油
大正14年創業、能登で人気の醤油蔵元。豊かな自然と水、代々続く技術で作られる甘口醤油は、能登の海の幸によく合います。パンケーキにかける醤油も好評発売中。