レモンの花咲く 御手洗の都
風よどうぞやまないで 恋する二人は船宿カフェで雨宿り
日本海沿岸には、風や雨が激しくなった時に船が避難する小さな湾や入り江が多くあり、これを「風待ち港」と呼びました。風待ち港から始まって、のち大きな交易港となったのがこの御手洗です。北前船の時代になると、広島藩で最もにぎわう「西国無双の港」と呼ばれました。
今でも離島の風情が漂うこの御手洗地区は、重要伝統的建造物群保存地区にも認定されており、ここで訪れたいのが北前船ゆかりの「船宿カフェ 若長」。江戸時代の1700年ころ、宇和島藩、大洲藩指定の船宿(船に水や食料を提供する店)だった町家を改装し、土日祝日のみオープンしているお店です。こちらでは、県の特産品、大長レモンのすりおろした皮をぜんざいに浮かべた「檸檬ぜんざい」、レモンぜんざいトーストなど地元食材を使ったスイーツがいただけます。晴れた日に二階のお座敷にあがれば、思わず息をのむほどの絶景が。大きく開け放たれた窓の向こうに、穏やかで波のない紺碧の海と、瀬戸内海に浮かぶ小さな島々が連なる「多島美」が広がります。
御手洗の見どころは、美しい景色はもちろん、大正・昭和にかけて流行ったレトロモダンな洋館や古い民家など独自の街並み。アニメ映画「ももへの手紙」で、物語中多く登場するのがここ御手洗地区で、ガイドマップ片手に聖地巡礼も楽しめます。
昭和初期に建てられ、芝居や映画の興行が行われた劇場「乙女座」は昭和30年代まで映画館としてにぎわい、いったん閉館した後、2002年に再建。建物は一般公開されているかたわら、大衆演劇や無声映画の上映イベントなど今も現役で活躍しています。
かつて御手洗には広島藩の認可を受けた4軒の茶屋(遊郭)があり、多くの船乗りたちが立ち寄りました。そのうちのひとつが「若胡子屋(わかえびすや)跡」。最盛期は100人もの遊女を抱え、豪華絢爛な花魁道中も見ることができたという御手洗最大の茶屋です。内部は明治時代に改装されましたが、外観は当時のまま。中に飾ってある遊女たちの古い写真から当時の様子が偲ばれます。